それは、
胸を張れる肩書きがないからじゃない。
何もしていないわけでも、
本気じゃないわけでもない。
ただ、
まだ途中だからだ。
夜の部屋は静かで、
ノートパソコンの画面だけが光っている。
時計は、もう日付をまたいでいた。
SNSのプロフィール欄を開いて、
何度もカーソルを点滅させる。
「フリーランス」
「在宅ワーカー」
「ライター」
「副業中」
どれも、
今の自分を言い切るには、
少しだけ重たかった。
名乗ることで、
責任が生まれる気がした。
同時に、
否定される準備も必要になる。
画面を閉じて、
深く息を吐く。
昔の私は、
「何者かになりたい」と思いながら、
何も始められずにいた。
肩書きがないことを理由にして、
挑戦しない自分を守っていた。
でも今は違う。
名乗れないままでも、
やることはやっている。
調べて、
学んで、
書いて、
消して、
また書いて。
誰にも見られていない時間に、
一番たくさんの試行錯誤をしている。
それは、
名乗るための準備じゃない。
続けるための時間だ。
名乗ってしまえば、
ゴールがあるような気がしてしまう。
でも、
私はまだ、
終わらせたくない。
途中であることを、
大事にしていたい。
窓の外では、
遠くの信号が赤に変わる。
静かな街の音が、
ゆっくり流れていく。
何者でもない時間は、
不安だった。
でも今は、
何者でもないからこそ、
試せることがある。
失敗しても、
「そういう途中だから」と
言える場所がある。
名乗らないことは、
逃げじゃない。
これは、
選んでいる状態。
肩書きより先に、
続けることを選んでいる。
ある日、
ふと気づくかもしれない。
「もう名乗ってもいいかな」って。
でもそれは、
誰かに認められたからじゃない。
自分が、
「やめなかった」と
言える日が来たとき。
それまでは、
名乗れないままでいい。
静かな夜に、
キーボードを叩く音だけが、
今日も部屋に残っている。
何者でもなかった私は、
今も名乗れない。
それでも、
確かに続けている。
それが、
私がここにいる理由だった。