あの日のことを、
私は今でも、はっきり覚えている。
応募ボタンの前で、
画面を何度も見つめていた。
募集内容は、もう何度も読んだ。
条件も確認した。
誤字がないかも、
送信前の文章を、もう一度なぞった。
それなのに、
指が動かなかった。
たった一回、
クリックするだけなのに。
部屋は静かなはずなのに、
心臓の音だけが、やけに大きく聞こえた。
マウスを握る手が、
少しだけ、震えていた。
大げさかもしれないけれど、
本当に、世界が止まったみたいだった。
もし、落ちたらどうしよう。
変な人だと思われたらどうしよう。
経験もないのに応募して、
笑われたらどうしよう。
不安が、
頭の中をぐるぐる回っていた。
それでも同時に、
別の声も、確かに聞こえていた。
このまま画面を閉じたら、
また同じ毎日に戻る。
調べて、
悩んで、
「そのうちやろう」と言いながら、
何も変わらない日々に。
そう思った瞬間、
不思議と、
少しだけ覚悟が決まった。
完璧じゃない。
自信も、ない。
それでも、
今の私なりに、書いた文章だった。
うまく見せようとするのをやめて、
正直な気持ちを、そのまま残した。
指先に、
ほんの少し力を入れて。
応募ボタンを、押した。
画面は、何も変わらなかった。
通知が鳴るわけでも、
何かが起こるわけでもない。
それでも、
私は確かに、一線を越えていた。
「考えているだけの人」から、
「動いた人」になった。
震えていた手は、
しばらく、止まらなかった。
でもその震えは、
怖さだけじゃなかった。
ちゃんと挑戦した自分への、
緊張と、
ほんの少しの誇らしさが、混ざっていた。
結果は、まだ分からない。
うまくいくかどうかも、分からない。
それでも、
この日の私は、
間違いなく、前に進んでいた。
あの震えは、
弱さじゃない。
勇気が、
動いた証拠だった。