正直、
何度も思った。
――もう、やめたほうが楽なんじゃないか。
パソコンを閉じて、
明かりを落とした部屋で、天井を見つめながら。
その考えは、
いつも疲れた夜に、そっとやってきた。
副業をやめたら、
この焦りも、不安も、
誰かと比べてしまう気持ちも、
全部なくなる気がした。
何もしなければ、
落ち込む理由も減る。
期待しなければ、
裏切られることもない。
そう考えると、
「やめる」という選択は、
とても優しく見えた。
――向いてないかも。
――結果も出てない。
――こんなに悩むなら、やめたほうがいいよね。
頭の中では、
やめたい理由が、
いくらでも整然と並んだ。
でもその一方で、
心の奥の、
もっと静かな場所から、
小さな声が聞こえていた。
ここでやめたら、
また同じ場所に戻るんじゃないか。
何も変えられなかった自分。
考えるだけで、結局動けなかった自分。
あの頃の自分を思い出すと、
胸の奥が、ひやっとした。
続けた先に、
何が待っているかは分からない。
でも、
やめた先にある景色は、
なぜか、はっきり想像できてしまった。
同じ朝。
同じ毎日。
「やっぱりできなかったな」って、
心の中でつぶやく自分。
それが、
どうしようもなく怖かった。
だから、
余計に揺れた。
やめたい。
でも、続けたい。
どっちが正解かなんて、分からない。
どっちを選んでも、
きっと不安は残る。
夜になると、
「明日から、もうやめようかな」って思って、
朝になると、
「もう少しだけ、やってみようかな」って思う。
カーテンの隙間から朝の光が差すたびに、
昨夜の決意は、
少しだけ形を変えた。
そんな日を、
何日も、何日も繰り返していた。
でも、ある時。
洗面所で顔を洗いながら、
ふと、気づいた。
私は、
「やめたい」と「続けたい」で
揺れてるんじゃない。
「傷つきたくない自分」と、
「変わりたい自分」の間で、
揺れているんだ。
傷つきたくないから、
やめたい。
これ以上、自分にガッカリしたくないから。
変わりたいから、
続けたい。
今のままの自分で終わりたくないから。
どっちも、
嘘じゃない。
どっちも、
本当の私だった。
だから、
無理にどちらかを消すのは、やめた。
「続ける」と決めた日も、
覚悟なんてなかった。
ただ、
「今日は、やめない」
それだけだった。
未来のことも、
成功のことも、
考えなかった。
今日一日、
手放さない。
それだけ。
大きな決断じゃない。
誰にも気づかれない、
小さな選択。
でもその積み重ねが、
気づけば、
私をここまで連れてきていた。
やめたいと思った日があったから、
続けている今がある。
揺れながらでもいい。
迷いながらでもいい。
その間に立ち続けていた私は、
もう、
「何もしていない人」じゃなかった。
静かだけど、
確かに。
私は、前に立っていた。