何度も、
「やめよう」と思った。
軽い気持ちじゃない。
その場しのぎでもない。
本気で、
何度も、
真剣に考えた。
机の上に置いたままのノート。
開きっぱなしのパソコン。
画面に映る文字を、
もう読みたくないと思いながら、
ぼんやり眺めていた夜もあった。
もうこれ以上、
不安にならなくていい。
誰かと比べなくていい。
できない自分に、
何度もがっかりしなくていい。
そう思えば思うほど、
「やめる理由」は、
十分すぎるほど揃っていた。
それなのに、
私は完全にはやめなかった。
理由は、
「まだできるかもしれない」
なんて、
前向きな希望じゃない。
むしろ逆だった。
「できなかった自分」を、
もう一度、
真正面から味わうのが怖かった。
やめた瞬間、
すべてが終わってしまう気がした。
ああ、やっぱり無理だったね、って。
失敗したね、って。
自分で自分に、
はっきり言い切ってしまうみたいで。
挑戦した途中でやめるのと、
最初から何も変えずに終わるのは、
似ているようで、
まったく違う。
私は、
「何もしなかった人」には
戻りたくなかった。
ほんの少しでも、
怖がりながらでも、
動いた自分を、
なかったことにしたくなかった。
机に向かった日。
応募ボタンを押した日。
Zoomで声が震えた日。
全部、
ちゃんとここにあった。
毎日じゃなくていい。
完璧じゃなくていい。
それでも、
完全に手放すことだけは、
どうしてもできなかった。
そして、
やめなかった理由は、
もうひとつあった。
それは、
「やめない私」が、
思っていたより、
弱くなかったこと。
泣いた日もあった。
布団の中で、
天井を見つめながら、
何もできない自分を責めた夜もあった。
自信なんて、
ほとんどなかった。
それでも、
次の日に、
すべてを投げ出すことはなかった。
パソコンを開けなかった日があっても、
「もう二度とやらない」とは、
言わなかった。
それって、
もしかしたら、
すごいことなんじゃないかって。
ある日、
ふと、
そんなふうに思えた。
続けている自分を、
誇れるほどじゃない。
胸を張れるほどでもない。
でも、
責めなくていい気がした。
やめなかった理由は、
強さじゃなくて、
しつこさだったかもしれない。
才能でも、
自信でもない。
ただ、
諦めきれなかっただけ。
それでも、
それで十分だった。
完全にやめなかった私を、
今は、
ちゃんと認めてあげたい。
何も変わっていないようで、
一番大事なところは、
確実に変わっていた。
「やめなかった」という事実だけが、
静かに、
ここに残っていた。