その日は、特別な一日じゃなかった。
何かが起きたわけでも、
誰かに背中を押されたわけでもない。
いつも通りの朝。
いつも通りの時間。
同じ道を歩いて、
同じように一日が過ぎていく。
ただ、その途中で、
私はふと立ち止まった。
このまま同じ毎日を続けたら、
来年の今も、
きっと同じことを考えている。
そう思った瞬間、
胸の奥が、少しだけざわっとした。
不安とも違う、
焦りとも違う、
でも確かに、無視できない感覚だった。
私は何者でもない。
誇れる実績もないし、
自信を持って語れるものもない。
それでも、
「変わりたい」
そんな言葉が、心に浮かんだ。
完璧になりたいわけじゃない。
誰かみたいになりたいわけでもない。
ただ、
今の自分を嫌いなまま、
時間だけが過ぎていくのが、
どうしても嫌だった。
変わりたい、という気持ちは、
大きな決意なんかじゃなかった。
「このままじゃ、嫌だな」
それくらいの、
小さくて、弱い本音。
でも、その日は違った。
その本音を、
初めて無視しなかった。
何者でもない。
だからこそ、
失うものも、実は少ない。
そう思えたとき、
肩に乗っていた何かが、
少しだけ軽くなった。
変わりたいと思えたこと自体が、
もう一歩だった。
まだ何も始まっていない。
何かを成し遂げたわけでもない。
それでも、
私はもう、
同じ場所にはいなかった。
心だけが、
ほんの少し前に進んだ。
それだけで十分だと、
そのとき初めて思えた。