スクールに入ってからの一週間は、
時間の感覚が少しおかしくなっていた。
一日が、やけに長い。
なのに、振り返ると何も掴めていない気がする。
そんな日が、静かに積み重なっていった。
朝、パソコンを開くたびに、
胸の奥が小さくざわつく。
ログインする前から、
もう遅れている気がしていた。
動画を再生する。
一度は聞いたはずの説明なのに、
「これ、昨日も出てきた言葉だよね?」
そう思いながら、
内容は指の間から零れていく。
ノートは増えていくのに、
理解は追いついていない。
文字だけが整然と並んで、
肝心の意味が、どこにもない。
チャットを開くと、
他の人たちの言葉が流れていく。
質問、回答、報告、前向きな言葉。
「ここまでできました」
「なるほど、理解しました」
その一行一行が、
自分とは違う世界の言葉みたいに見えた。
――みんな、早くない?
同じタイミングで始めたはずなのに、
もう先の景色を見ている人がいる。
私はまだ、
入口で靴を揃えているだけなのに。
夜になると、
画面を閉じたはずの内容が、
頭の中でリピートされる。
分からなかった部分。
聞き逃した気がする説明。
質問できなかった自分。
布団に入っても、
眠りは浅くて、
目を閉じるたびに
「ついていけないかも」という言葉が浮かぶ。
一週間目の半ば、
ふと、指が止まった。
再生ボタンの前で、
画面を見つめたまま、
何分も動けなかった。
――ここで、やめたら楽かもしれない。
そう思ったのは、
逃げたいからじゃなかった。
ただ、
自分が場違いだと認めるほうが、
楽な気がしただけ。
できない理由は、
いくらでも見つかる。
時間が足りない。
理解が遅い。
向いていない。
でも、
パソコンは閉じなかった。
代わりに、
動画を最初から再生した。
分からないところで止めて、
また戻して、
同じ部分を何度も聞いた。
進むスピードは、
明らかに遅かった。
でもその日は、
「分からない」を放置しなかった。
それだけで、
少しだけ、
自分を見失わずにいられた。
一週間が終わる頃、
私は気づいた。
ついていけない、という感覚は、
「何もしていない人」には生まれない。
必死についていこうとしているから、
置いていかれる気がするんだ。
怖いのは、
遅れていることじゃない。
一人だと思ってしまうことだった。
でも本当は、
誰もがそれぞれの場所で、
同じように迷っている。
ただ、
それが見えないだけ。
最初の一週間。
私は、
できるようにはならなかった。
自信も、増えなかった。
それでも、
「無理かもしれない」と思いながら、
席を立たなかった。
それは、
小さくて、
誰にも見えないけれど、
確かな前進だった。
ついていけないかも、と思った一週間。
それでも私は、
まだ、ここにいる。
その事実だけが、
次の一週間へ進むための、
唯一の理由になっていた。