土. 1月 10th, 2026

前の職場では、
私は「できる人」だった。

電話が鳴れば、反射みたいに体が動いた。
相手の声色を聞いただけで、
クレームか、問い合わせか、
それとも少し寂しいだけの人か、
だいたい分かった。

難しい案件が回ってくるのも、
新人さんのフォローを頼まれるのも、
いつの間にか当たり前になっていた。

「スーパーエースだから」
そう言われるたびに、
笑って「いえいえ」なんて返しながら、
心のどこかで、少しだけ安心していた。

私は、ここにいていい。
私は、役に立っている。
私は、ちゃんとできている。

そう思える場所が、そこにはあった。

でも、副業を始めて、
スクールに入って、
新しい世界に足を踏み入れた瞬間、
その感覚は、あっけなく消えた。

画面の向こうには、
知らない言葉。
知らないツール。
知らないスピード感。

「えっと…」と止まる指。
どこを見ればいいのか分からない画面。
質問しようとして、
「こんなこと聞いていいのかな」と消した文章。

あの頃の私なら、
説明する側だった。
教える側だった。
頼られる側だった。

なのに今は、
何一つ、自信を持って言えることがない。

スーパーエースだったはずの私は、
ここではただの初心者で、
評価されていた過去は、
今の私を助けてはくれなかった。

それが、思っていた以上に堪えた。

「私、結局あの場所だけの人だったのかな」
「できるって言われてたのは、環境のおかげだったのかな」

夜、パソコンを閉じたあと、
そんな考えが頭の中をぐるぐる回った。

過去の実績を思い出すほど、
今の自分との差がはっきりして、
余計に苦しくなることもあった。

評価されていたはずなのに、
自信は、ここに持って来られなかった。

でも、少し時間が経ってから、
ようやく分かったことがある。

あの場所での評価は、
「私がダメじゃない証明」ではあったけど、
「この場所でもできる保証」ではなかった。

そしてそれは、
悪いことじゃなかった。

新しい場所では、
また一から積み上げるしかない。
分からないまま、立ち止まりながら、
少しずつ覚えていくしかない。

それは、
前の自分が否定されたわけじゃなくて、
今の自分が、別の入り口に立っているだけだった。

評価されていた過去が、
今の自信にはならなかった。

でも、
あの頃、積み重ねてきた「続けた時間」は、
ここで踏ん張る力にはなっていた。

分からなくても、投げ出さない。
できなくても、完全にはやめない。
自信がなくても、画面を閉じきらない。

それだけは、
あの頃の私が、ちゃんと教えてくれていた。

だから今は、
過去の評価にすがらなくていいと思っている。

もう一度、
何者でもないところから始めている自分を、
少しだけ誇りに思える。

評価されていた過去が、
今の自信にはならなかった。

でも、
今の私が前に進む理由には、
確かになっている。

そしてたぶん、
この感覚を知れたこと自体が、
次の章に進むための、
小さな準備なんだと思う。

投稿者 minatsu

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