土. 1月 10th, 2026

その夜、
パソコンはちゃんと机の上にあった。

電源も入っている。
ブラウザも開いている。
課題のページも、画面の真ん中に表示されていた。

なのに、
私は何もしていなかった。

時計を見ると、23時を少し過ぎている。
「そろそろ始めないと」
そう思いながら、
指はキーボードの上に乗らない。

部屋は静かだった。
遠くで車の音がして、
冷蔵庫が小さく唸る音だけが聞こえる。

昼間は、
「今日は課題やろう」って思っていた。
ちゃんと時間も空けていたし、
心の中では覚悟も決めたつもりだった。

なのに夜になると、
課題という二文字が、
急に重たくなる。

画面に書いてある説明を読む。
一行目で、
もう分からない気がする。

「これって、どういう意味だっけ」
「前の動画でやったよね」
「え、私ちゃんと聞いてた?」

そんな疑問が、
一気に押し寄せてくる。

分からないところを調べようとして、
別のタブを開く。
検索して、
少し読んで、
また分からなくなる。

気づいたら、
画面には関係ないページが増えていた。
課題から、
少しずつ、
確実に遠ざかっている。

頭の中では、
自分を責める声が大きくなる。

――また今日も、何もできないの?
――スクール入った意味、ある?
――みんなはもう終わらせてるかもしれないのに。

誰にも言われていないのに、
勝手に追い詰められていく。

「やらなきゃ」
「でも分からない」
「分からないまま出すのは怖い」
「怖いから、手が動かない」

堂々巡りだった。

課題に手をつけられなかったのは、
怠けていたからじゃない。
真面目に向き合おうとしすぎて、
動けなくなっていただけだった。

時計は、
気づけば0時を回っていた。

今日中にやるって、
決めてたのに。

その瞬間、
胸の奥が、
じんわり痛くなった。

――やっぱり、向いてないのかな。

その言葉が浮かんで、
消えなくなる。

前の私なら、
ここで全部閉じて、
「やっぱ無理だった」で終わっていたと思う。

でもこの夜、
私は少しだけ違った。

課題には、
結局、手をつけられなかった。
それは事実。

でも、
パソコンを閉じる前に、
画面をもう一度見た。

「今日はできなかった」
そう、心の中で言った。

言い訳もしなかった。
励ましもしなかった。
ただ、
事実として認めただけ。

そして、
ブラウザを閉じた。

布団に入ると、
相変わらず不安は残っていた。
自己嫌悪も、
少しだけあった。

それでも、
前より強く自分を責めることはなかった。

課題に手をつけられなかった夜。
それは、
何も進まなかった夜じゃない。

「できない自分」を否定せずに、
ちゃんと今日を終わらせた夜だった。

明日、
また同じ課題を開くかもしれない。
怖さは、
消えていないだろう。

それでも、
この夜を越えた私は、
昨日よりほんの少しだけ、
自分から逃げずにいられる。

課題に手をつけられなかった夜。
それは、
折れなかった夜でもあった。

投稿者 minatsu

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