その画面を開いたのは、
ほんの出来心だった。
「ちょっとだけ見よう」
それだけのつもりだった。
スクールのコミュニティ。
投稿一覧。
次々と流れてくる言葉たち。
「無事に課題提出できました!」
「初案件、受注できました!」
「まだ慣れないけど、少しずつ楽しくなってきました」
明るい言葉に、
笑顔のアイコン。
前向きな空気。
それを見た瞬間、
胸の奥が、きゅっと縮んだ。
同じスクール。
同じスタート。
同じ「初心者」のはずなのに。
どうして、
こんなに違う場所にいるように見えるんだろう。
私はまだ、
課題のページを開いては閉じて、
「分からない」で止まっている。
なのに画面の向こうでは、
もう次の話をしている人たちがいる。
スピードが違う。
理解力が違う。
そもそも、土俵が違う気がした。
「私、場違いかも」
誰かに言われたわけじゃない。
比べろとも言われていない。
それなのに、
勝手に心が追いつかなくなる。
投稿をひとつ読むたびに、
自分の足元が、
少しずつ不安定になる。
「すごいな」
「頑張ってるんだな」
そう思いたいのに、
その後ろに、
必ず別の感情がついてくる。
――それに比べて、私は。
画面をスクロールする指が、
だんだん重くなる。
応援したい気持ちと、
見ていられない気持ちが、
同時に存在していた。
自分が嫌になる前に、
私はそっと、
画面を閉じた。
勢いよくじゃない。
乱暴でもない。
ただ、
静かに。
スマホを伏せて、
一度、深く息を吐く。
部屋は変わらず静かで、
誰も私を責めていない。
でも心の中では、
小さな嵐が起きていた。
できる人たちを見て、
落ち込んだ夜。
その事実が、
少し悔しかった。
「比べないって決めてたのに」
「またやってる」
そんなふうに、
自分にがっかりもした。
でもその夜、
私はもうひとつのことに気づいていた。
画面を閉じたのは、
逃げたからじゃない。
これ以上、
自分を削りたくなかったから。
前の私は、
落ち込むと分かっていても、
見続けて、
比べ続けて、
自分を傷つけていた。
でもこの夜は、
「今日はここまで」って、
ちゃんと引き返した。
それは、
とても小さな選択だったけど、
確かに、
自分を守る選択だった。
できる人たちは、
ちゃんと進んでいる。
それは事実。
でも、
できない私も、
ここで立ち止まりながら、
自分なりに進もうとしている。
同じ速度じゃなくていい。
同じ場所にいなくてもいい。
今は、
比べるより、
目の前を見るだけで精一杯だ。
画面を閉じたあと、
私はもう一度、
パソコンを開いた。
課題のページを、
ただ表示する。
それだけ。
できる人たちを見て、
そっと閉じた画面。
それは、
諦めた瞬間じゃない。
自分のペースに、
戻ってきた瞬間だった。