その日は、朝からずっと落ち着かなかった。
パソコンを開いては閉じ、
閉じては、また開く。
画面の向こうには、数えきれないほどの動画が並んでいた。
タイトルはどれも立派で、どれも必要そうで、どれも今の自分には遠く感じる。
「ここから始めてください」
そんな声が聞こえた気がして、画面を見つめる。
けれど、どこを見ても“入口”が分からなかった。
何から手を付けていいのか、本当に分からなかった。
動画一覧をスクロールするたびに、再生時間の数字が目に入る。
30分。
45分。
1時間。
職業別、応用編、実践編。
どれも避けて通れない気がして、どれも今すぐ必要な気がしてくる。
「これ、全部やるの……?」
思わず、小さく声が漏れた。
時間が足りない、というより、人生が足りないような気がした。
何日あっても足りない。
何週間あっても、終わらない。
その圧に、胸の奥がじわじわと締め付けられていく。
私は椅子に深く腰を下ろし、背もたれに体を預けた。
天井を見上げながら、何度も同じ考えが浮かぶ。
「また、間違えたのかな」
やる気はある。
変わりたい気持ちもある。
それなのに、動けない。
やろうとした瞬間に情報に飲み込まれて、迷子になる。
この感覚は、何度も味わってきた。
期待して、踏み出して、分からなくなって、止まる。
心が、静かに折れていく感覚。
そんな日に、オンライン面談の時間がやってきた。
正直、話せる自信はなかった。
何が分からないのかさえ、うまく言葉にできないから。
画面に相手の顔が映り、穏やかな声で話が始まった。
「今、どこで止まっていますか?」
その問いに、言葉が一瞬詰まる。
でも、私は正直に話した。
動画が多すぎること。
職業別のコンテンツが、どれも必要に見えてしまうこと。
全部やらなきゃいけない気がして、結局何も進めていないこと。
話しているうちに、胸の奥が少し熱くなった。
すると、相手は落ち着いた口調で言った。
「大丈夫ですよ。全部やらなくていいです」
その一言は、思っていた以上に深く胸に落ちた。
画面共有で映し出されたのは、一枚のチェックリストだった。
複雑なものではなく、驚くほどシンプルな道筋。
「今日は、ここまでで十分です」
「迷ったら、ここに戻ってきてください」
その言葉と一緒に示された道は、はっきりと一本に見えた。
今まで私は、広大な地図を渡されて、どこへ行けばいいか分からないまま立ち尽くしていた。
でもこの日は違った。
「ここを歩けばいい」
そう言ってもらえた気がした。
面談が終わる頃、不安が消えたわけではなかった。
自信が急に湧いたわけでもない。
それでも、心の中には確かな感覚が残っていた。
「進めるかもしれない」
面談後、私は自分のロードマップを作った。
いつまでに、何をするか。
どこまでできたら、次へ進むか。
完璧じゃない。
変更していい前提の、柔らかいロードマップ。
それでも、それは間違いなく「私の道」だった。
副業として、進めていく。
逃げるためではなく、挑戦として。
焦らない。
無理をしない。
でも、やめない。
それだけを、静かに決めた。
動画の量は、相変わらず多い。
職業別のコンテンツも、今見ればまだ途方もない。
それでも、心はもう折れそうじゃなかった。
なぜなら、私は迷子ではなくなったから。
チェックリストがある。
ロードマップがある。
戻る場所が、はっきりしている。
そして何より、「一人じゃない」と感じられた日だった。
この日、私は決めた。
副業として、この道を進む。
遅れてもいい。
立ち止まってもいい。
それでも、前へ進み続ける。
このロードマップの先に、どんな景色が待っているのかは分からない。
でも、進むと決めた。
それだけで、この日は、十分すぎるほど意味のある一日になった。