金. 2月 27th, 2026

翌朝、目が覚めた瞬間、
私は一瞬だけ不安になった。

昨日のあれは、
気のせいだったんじゃないか。
一時的に安心しただけで、
今日になったら、また元に戻っているんじゃないか。

スマホを手に取り、時間を見る。
いつもと同じ朝。
特別な通知もない。

それでも、布団の中で深呼吸をひとつしてから、
私は起き上がった。

机に向かい、パソコンを開く。
立ち上がる音。
ログイン画面。
見慣れたはずの光景なのに、
今日は少しだけ、違って見えた。

チェックリストを開く。

昨日、自分で作ったロードマップ。
そこに並ぶ項目は、相変わらず地味だった。

動画を一本見る。
メモを三行書く。
分からないところに印をつける。

誰かに自慢できるような内容じゃない。
成果と呼ぶには、あまりにも小さい。

それでも私は、
ひとつ目の項目にチェックを入れた。

カチッ、と小さな音がした気がして、
胸の奥がわずかに動いた。

「できた」

声に出すほどでもない。
でも、確かに“やった”。

次の項目も、
完璧じゃないまま進めた。

理解度は六割。
途中で巻き戻した箇所もある。
メモも、きれいじゃない。

それでも、
止まらなかった。

気づけば、
チェックは二つ、三つと増えていた。

昼過ぎ、
私はふと手を止めた。

そして、
今まで一度もしたことのないことを考え始めていた。

「これを……誰かに見せてもいいのかな」

胸の奥が、きゅっと縮む。

こんなものを見せて、
笑われたらどうしよう。
「それだけ?」って思われたら。

頭の中で、
何度も自分にブレーキをかける。

でも同時に、
昨日の面談の言葉が、遅れて効いてきていた。

迷ったら、戻ってきてください。
今日は、ここまでで十分です。

私はスクリーンショットを撮った。
チェックの入った、小さなリスト。

誰に送るか、
何度も迷って、
文字を打っては消して。

指が少し震えていた。

「今日、ここまで進めました」

それだけの一文を添えて、
送信ボタンを押した。

一瞬、時間が止まった気がした。

送ってしまった。
取り消せない。

心臓の音が、やけに大きい。

返事が来るまでの数分が、
やたらと長く感じた。

そして、
画面に表示された短いメッセージ。

「いいですね」
「ちゃんと進んでますよ」

たったそれだけ。

でも、その言葉は、
思っていた以上に重かった。

胸の奥に、
じんわりと温かいものが広がる。

否定されなかった。
小さすぎるとも言われなかった。

「これは、進んでいる」と、
他人の目で確認してもらえた。

それは、
今まで一度もなかった感覚だった。

私は椅子にもたれ、
しばらく天井を見つめた。

できたことは、ほんの少し。
世界は、何も変わっていない。

それでも、
「自分の中だけの自己満足」じゃなくなった。

今日の“できた”は、
確かに外の世界とつながった。

その夜、
チェックリストをもう一度開く。

今日の分に、
小さく丸をつける。

派手じゃない。
遅い。

でも、確実に、
昨日の自分より前にいる。

私は初めて思った。

「このペースなら、続けられるかもしれない」

大きな夢じゃなくていい。
一気に変わらなくていい。

小さな「できた」を、
誰かに見せながら、
少しずつ積み上げていけばいい。

そう思えたこの日は、
私にとって
“行動が現実になった最初の日”だった。

投稿者 minatsu

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