夜になると、だいたいダメだった。
昼間は、まだ大丈夫なのに。
洗濯をして、買い物をして、
「今日も一日終わったな」と思えるくらいには、平気なのに。
布団に入って、
部屋の明かりを消して、
音が全部、静かになると、
急に心だけが、騒ぎ出す。
時計の針の音が、やけに大きく感じて、
自分の呼吸のリズムまで、気になってくる。
そんなとき、
分かっているのに、
やらなくていいって分かっているのに、
私はスマホを手に取ってしまう。
画面を点けて、
SNSのアプリを開く。
そこに並んでいるのは、
誰かの「できた報告」だった。
副業で成果が出た話。
勉強を始めて、すぐ結果が出た話。
「行動したら人生変わりました」みたいな言葉。
キラキラした言葉が、
暗い部屋の中で、やけにまぶしく見えた。
そのたびに、
胸の奥が、ぎゅっと縮む。
――同じ時間を生きてるはずなのに。
――どうして私は、こんなに何もできてないんだろう。
比べないって、何度も決めた。
落ち込まないって、心に言い聞かせた。
それなのに、
ちゃんと比べてしまうし、
ちゃんと落ち込む。
スマホを閉じても、
もう遅かった。
画面に映った言葉は、
そのまま頭の中に残って、
何度も再生される。
あの人は前に進んでいる。
私は、ずっと足踏みしている。
「向いてないのかな」
「やっぱり無理なのかな」
そんな言葉が、
心の中で、静かに、でもしつこく繰り返される。
正直、夜は弱かった。
何もできなかった一日を、
頭の中でなぞり直して、
「今日もダメだったな」って、
自分に小さなバツをつける。
泣くほどじゃない。
でも、元気でもない。
ただ、
静かに、沈んでいく夜。
それでも、
そんな夜に、私がしていたことがあった。
大きなことじゃない。
前向きな行動でも、立派な考え方でもない。
ただ、
「今日はダメだったな」って、
そのまま、認めてあげること。
無理に元気になろうとしない。
前向きな言葉を探さない。
できない自分を、無理に変えようとしない。
「今日は比べちゃったな」
「落ち込んだな」
それだけを、
心の中で、そっと言う。
それだけで、
少しだけ、呼吸が楽になる。
完璧じゃない。
何もできなかった日かもしれない。
それでも、
今日もちゃんと、生きていた。
SNSを閉じて、
スマホを裏返して、
布団の上に置く。
目を閉じると、
さっきより、少しだけ静かだった。
明日、いきなり変われなくてもいい。
また比べてしまうかもしれない。
それでも、
今日の夜をちゃんと越えられたなら、
それだけで、十分だった。
比べて、落ち込んだ夜。
何かを成し遂げたわけじゃない。
でも私は、
自分をこれ以上、責めなかった。
それがきっと、
次の日、また一歩進めるための、
小さな回復だったんだと思う。