副業を始めて、
一番変わったのは、
スキルでも、行動力でもなかった。
考え方だった。
それに気づいたのは、
成果が出た日じゃない。
誰かに褒められた日でもない。
ただ、
いつもと同じ夜。
机の上に置いたノートパソコンの画面を、
ぼんやり眺めていたときだった。
始める前の私は、
ずっと同じ場所に立っていた。
一歩も動かず、
それでも前に進みたい気持ちだけはあって、
結果、
その場で足踏みを繰り返していた。
できる人が、結果を出す。
向いてる人だけが、続けられる。
私はただ、
画面の向こう側を眺める人。
SNSに流れてくる成功談。
「初月から〇万円」
「未経験でもすぐに案件獲得」
そのたびに、
胸の奥が、
じわっと重くなった。
だから、
つまずくたびに。
手が止まるたびに。
心の中で、
いつもの言葉をなぞっていた。
――ほらね。
――やっぱり、私じゃない。
できない自分を見つけるたびに、
どこか安心していた。
諦める理由が、
またひとつ増えたから。
でも今は、
同じ言葉を、
まったく違う場所から見ている。
「できる人が続けるんじゃない。
続けた人が、できるようになる」
最初にこの言葉を見たとき、
正直、
きれいごとだと思った。
そう言えるのは、
もうできるようになった人だけだって。
でも、
ある夜のことだった。
時計は深夜を回っていて、
部屋の中は静かで、
パソコンの光だけが、
私の顔を照らしていた。
分からない。
うまくいかない。
何度見返しても、理解できない。
それでも、
画面を閉じなかった。
ほんの少しだけ、
もう一行だけ読もうと思った。
小さな「分からない」を、
そのままにしなかった日。
そういう夜が、
何度も積み重なって、
気づいたら、
考え方のほうが先に変わっていた。
頭で理解したんじゃない。
体で、
少しずつ覚えていった。
最初から上手な人なんて、
どこにもいなかった。
怖がらずに進める人も、
最初はいなかった。
違ったのは、
才能でも、
特別な覚悟でもなくて。
やめなかったかどうか。
それだけだった。
もうひとつ、
はっきり変わった考え方がある。
「不安=ダメな状態」
だと思わなくなったこと。
前は、
不安になるたびに、
胸を締めつけられるような気がしていた。
これは、
向いてない証拠なんだって。
でも今は、
違う。
不安は、
ちゃんと考えている証拠。
真剣に向き合っている証拠。
不安があるから、
調べる。
立ち止まる。
慎重になる。
不安があるから、
無理をしない。
自分のペースを、
守ろうとできる。
そして、
もうひとつ気づいたことがある。
「何もできていない」と
思っていた時間も、
ちゃんと前に進んでいた
ということ。
調べて、
悩んで、
迷って、
何度も立ち止まっていた時間。
あれは、
無駄じゃなかった。
心が、
新しい場所に追いつくために、
必要な時間だった。
副業を始めたことで、
私は「結果」だけを見るのを
やめた。
代わりに、
「途中の自分」を
ちゃんと見るようになった。
完璧じゃなくていい。
早くなくていい。
迷ってもいい。
進んでいるかどうかは、
誰かと比べるんじゃなくて、
昨日の自分と比べればいい。
そう思えた夜、
窓の外は静かで、
街の灯りが、
いつもよりやわらかく見えた。
副業は、
私の人生を
一気に変えたわけじゃない。
でも、
自分の見方を、
確かに変えてくれた。
それだけで、
始めた意味は、
もう十分だった。
そして私は、
今日もまた、
静かに続きを開く。
まだ途中で、
まだ不安で、
それでも、
ちゃんと前にいる自分として。